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ESTILO ARQUITECTÓNICO II  マヤの建築様式 2

       YUCATAN, CAMPECHE  (Puuc, Río Bec, Chenes)
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       Región Puuc - Sayil サイール             Región Puuc - Uxmal ウシュマル    

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       Región Chenes - Hochob ホチョブ           Región Río Bec - Hormiguero オルミゲロ   


プーク地域   Región Puuc
ユカタン州プーク台地の、ウシュマル カバーサイルラブナー等を 中心に古典期後期、終末期に興隆した有名なプーク様式です。

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       Maqueta de El Palacio, Sayil      サイルの宮殿の復元模型。  (チェトゥマル マヤ文化博物館)


arqueología 特別号2 p.80 にはおよそ次のようなプーク様式の説明があります。

プーク地域には初期様式と後期様式があり、初期様式の建物は荒削りの石材が使われ、マヤアーチと石を積み上げた屋根飾りを持ち、建物 外壁の仕上げには 厚い漆喰が塗り込められ、漆喰は浮き彫り彫刻にも使われていた。 建物の入口は複数の円柱で支えられ開口部が広くとってあり、円柱は頭に 四角い柱頭を持つのが一般的。

後期プーク様式は、壁や天井はセメントが塗り込められ、更に綺麗に磨かれた小石で覆われた。 仕切り壁下部は装飾は見られないが、 外壁上部はモザイク状の幾何学模様が施され、入口上部や建物角には大きな鼻を持つ雨の神チャークの仮面が取り付けられた。 沢山の部屋を持つ大きな建造物も 後期様式の特徴。

前期様式と後期に分けて説明されていますが、使われている石材が荒削りなのかどうか等、実際に遺跡を訪問しても素人には前期と後期の違いはあまりよく わかりません。

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      Parte oeste de El Palacio, Sayil  サイール大宮殿西側

立体模型にあるサイール大宮殿からプーク様式を見て行きます。  模型は完全に復元された姿で、実際は中央階段の右側(東側)壁面は殆ど崩れてなくなっていますが、残った左半分は 二層目(立体模型で白枠で囲った部分、下がその拡大)が特に良い状態で残されていて、典型的なプーク様式を見る事が出来ます。

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      El Palacio de Sayil y su detalle  サイールの宮殿の壁面装飾細部

プーク様式の特徴は、細かく加工した石を組合せたモザイク彫刻で建物の外壁を飾っている点で、この西側二層目の外壁上部や外壁 コーナーにも見事なチャーク像のモザイク彫刻が見られます。 チャーク像の横には円柱が連なり、左右に伸びる軒蛇腹の部分にも 小さな円柱が嵌め込まれ、この円柱もプーク様式の特徴になります。

外壁下部の開口部は四角い柱頭を持つ円柱で支えられ、開口部横の壁面全体がやはり円柱で出来ており、モザイク彫刻の壁面上部と相まって典型的なプーク様式を 示しています。

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      Detalle de la fachada superior de las Monjas, Uxmal  ウシュマル尼僧院の壁面装飾

モザイク壁面彫刻のモチーフには、チャーク像の他、幾何学模様、ヘビ、ジャガー、民家等、色々あります。 ウシュマル尼僧院の壁面装飾を 見てみましょう。

左上の写真、幾何学模様の上に上下三連のチャーク像とガラガラヘビの頭、胴体、尾が配されています、写真右がそのヘビの 頭と尾の部分の拡大。 写真左下はマヤ民家で、屋根に双頭のヘビが3匹、戸口に背中合わせのジャガーが2匹、写真右下は格子状の背景 の上に8連の双頭のヘビが台形状に置かれ、その上にエンブレムが取り付けてあり、これら全て尼僧院にある壁面装飾です。

プーク様式の見事な壁面装飾は、同じウシュマルの総督の館や、カバーのコズ・ポープ、シュラパックの宮殿、ラブナーの宮殿やアーチ、 更にはチチェン・イッツァの尼僧院など、数多くありますので、それぞれのページを参照下さい。

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      Dios Chac en Copán コパンにあるチャーク像       Dios Chac en Mayapán  マヤパンのチャーク像

プーク様式に多く見られる チャーク像ですが、地理的に離れた古典期のホンジュラス コパン遺跡でも 見られ、カンペチェ州の後述のチェネス様式、リオ・ベック様式では壁面装飾で多用され、更に後古典期のマヤパン遺跡にも残され、プーク様式だけ の専売特許という訳ではありません。 (コパンのチャーク像のような彫刻は、ウィッツ・モンスター=大地の怪物であり、雨の神チャークとは異なる と言う解釈があるようです。)

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      Crestería de El Palomar, Uxmal ウシュマル 鳩舎     Crestería de Codz Poop, kabáh カバー コズ・ポープ

プーク様式の建物はサイールの宮殿の様に平たい屋根を持つものが多いですが、屋根飾りを持つものもあります。 上のarqueología 特別号2の説明によれば屋根飾り は初期プーク様式の特徴ですが、ウシュマルの鳩舎やカバーのコズ・ポープは初期様式と言う事になるのでしょうか。

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      Cuadrángulo de las Monjas, Uxmal ウシュマル尼僧院入口    Arco de Labná 有名なラブナのアーチ

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      Arco falso de Codz Poop, Kabah              Arco falso de Cuadrángulo de lo Pájaros,Uxmal
      カバーのアーチ天井                      ウシュマル、小鳥の矩形のアーチ天井


最後にプーク様式のマヤアーチを見てみます。 緩やかに弧を描く均整の取れたアーチが、室内の天井の他、建造物の入口等に多く 見られ、ラブナーのアーチはその見事な壁面装飾と共に代表的なプーク様式建造物として知られます。

室内の天井を支える所謂マヤアーチは、ペテン様式他、様々なバリエーションがあり、遺跡訪問の際は是非注意して見てみるようお勧めします。  と言いつつ、自分自身まだ様式の異なるマヤアーチの体系的理解が出来ていないように思います。 資料を探してまた別の機会に 掘り下げてみたいと思います。

リオ・ベック地域    Región Río Bec
ペテン地域の北、カンペチェ州の南東部に、古典期後期・終末期に独特の建築様式を花開かせたリオ・ベック地域が広がります。  代表的な遺跡としては、 リオ・ベックオルミゲロ シュプイルチカナ ベカン等があります。

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      Maqueta de Estructura I, Xpuhil   シュプイル建造物 I の復元模型。  (チェトゥマル マヤ文化博物館)

リオ・ベック地域では、大きなピラミッドを築く代わりに、宮殿に大きな塔を取り付けて飾り立てました。 低層の宮殿に 左右対称の一対の塔を取りつけるのが基本ですが、色々なバリエーションがあり シュプイルの建造物 I には例外的に3つの塔が ありました。

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      Estructura I, Xpuhil シュプイル建造物 I          Estructura II, Hormiguero オルミゲロ建造物 II

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      Estructura 8, Becán    ベカン8号建造物        Dibujo de reproducción 想像復元図

リオ・ベック様式の繊細な装飾は風化が進み、特徴を見るには復元図の助けが必要です。 上のシュプィル建造物 I の復元模型の現状は写真左上で、 かなり状態の良いオルミゲロの神殿でも崩壊が進みます。 ベカンの8号建造物は右側の復元図のようた典型的な リオ・ベック 様式宮殿でしたが、現状はその姿が復元図から何とか想像できる程度です。

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      Estructura II, Chicanná  チカナ建造物 II         Estructura II, Hormiguero オルミゲロ建造物 II

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      Estructura 2, Hochob   ホチョブ建造物2        Detalle de maqueta   復元模型の細部。

壁面装飾は壁面上部中心のプーク様式と異なり、壁面下部までモザイク彫刻で埋めつくされています。 建物の入口は地の怪物が口を 開けたモチーフで飾られるのが通常で、次に説明するチェネス様式と共通の特徴です。 雨の神チャークの鼻の突き出た彫刻も数多く 組み込まれています。

写真上はリオ・ベック様式のチカナとオルミゲロにある地の怪物が入口を飾った建造物で、下はチェネス様式のホチョブ遺跡の地の怪物 で、右側はその復元模型です。

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      Torre central de Estructura II, Xpuhil シュプイル     Detalle de torre   復元模型の塔。

装飾の塔の基壇にもリオ・ベックとチェネス共通の特徴が見られます。 基壇の角は丸く仕上げられ、基壇の各層のモールディングは 出っ張りを持ち、前部に取り付けられた装飾用の階段には手摺り部分があります。

こうした共通点を持つリオ・ベックとチェネスは、同一の様式として扱われる事もありますが、装飾の塔の上に築かれた神殿は リオ・ベック様式の場合は全くの飾りで、室内の空間が無く、入口を模した開口部の窪みのみ設けられていたのに対して、チェネス様式 では神殿にも実際に部屋が設けられ使用されていたようです。

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      Decoraciones típicas de Estilo Río Bec    リオ・ベック様式の特徴的な壁のデザイン。

また、リオ・ベック様式には写真のような碁盤の目の模様や、市松模様の十字が見られますが、これはチェネス様式には無い特徴と言われます。

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      Estructura 1, Becán  ベカン建造物 1           Estructura II, Chicanná  チカナ建造物 II

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      Estructura XX, Chicanná  チカナ建造物20       Escalera interior de Estructura XX  内部の階段

低層の宮殿に左右対称の飾りの塔を取りつけた典型的な建物に対して、非典型的なリオ・ベック様式と言われる建造物があります。

ベカンの建造物 1 は左右に中層の巨大な塔が一対あり、写真は建造物の裏側ですが、表側には二層にわたり居室がずらっと 並びます。 チカナの建造物 II は塔を持たずに居室がある宮殿風の建物、建造物 XX も塔はありませんが、居室が二層に配され 途中で 折り返す階段で繋がれています。

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      Techo abovedado de Estructura II, Chicanná       Techo abovedado de Estructura 4, Becán

最後にリオ・ベック様式の遺跡で見たアーチ天井、左がチカナの建造物 II、右がベカンの建造物 4 でした。

リオ・ベック (ベック川) の名前のついたリオ・ベック遺跡があり、興味深い遺構が残されています。 2013年1月にやっと訪問が叶いました。  詳細は リオ・ベック のページで。

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    Estructura 5N2, Río Bec A  リオ・ベックA 建造物 5N2

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    Estructura 6N1, Río Bec B  リオ・ベックB 建造物 6N1

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    Río Bec C  リオ・ベックC                  Ramonal  ラモナル


チェネス地域   Región Chenes
カンペチェ州北東部には水源に乏しいチェネス地域 ( Chen はマヤ語で井戸の意味) があり、リオ・ベック様式に類似するチェネス様式 と 呼ばれる遺跡群があります。  ホチョブシビルノカック シュタバスサンタ・ロサ・シュタンパック 等が知られます。

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      Estructura A-1, Dzibilnocac      シビルノカック建造物 A-1

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      Estructura 5, Hochob     ホチョブ建造物 5

まずチェネス様式の神殿ピラミッドを見てみましょう。 上はシビルノカックの3つの塔が居室で繋がれた建造物 A-1 です。  かなり崩れていて特徴が見づらいですが、ほぼ原型を残す手前の塔は基壇角が丸く仕上げられています。

下の写真はホチョブの建造物 V で、特徴的なモールディングを持つ角の丸い基壇が残ります。

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      Templos superiores de Estructuras A-1 y 5      それぞれの上部構造。

基壇上に築かれた神殿を見てみましょう。 シビルノカックの場合は4面に所謂 地の怪物が口を開けたモチーフがあり、ホチョブは装飾のない プレーンな外壁ですが、共に神殿内部には居室が設けられ、内部に空間の無い見せかけの神殿のリオ・ベック様式とは異なります。

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      Estructura 1 de Xtabas-Tabasqueño   タバスケーニョ の建造物1

タバスケーニョ(シュタバス)にも地の怪物の装飾がある塔を中央に持つ建造物があります。 塔はハリケーンの被害を受け半分を残して崩れ落ちて いましたが(写真右)、2003年には元の姿に修復されています。

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      Estructura V de Hormiguero  オルミゲロ建造物 V と上部神殿。

リオ・ベック地域のオルミゲロに、シビルノカックやシュタバスの神殿ピラミッドに酷似した建造物Vがあり、神殿内部には空間が ありました。

リオ・ベックの項でも見たようにチカナ建造物 II とホチョブの建造物 2も非常に良く似ていて、この辺りがリオ・ベックと チェネスを同一様式と考える根拠かもしれませんが、チェネス地区にはリオ・ベック地区ほど華美で見せかけに走った大規模建造物は 無いようです。

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     Maqueta de Estructura 2, Hochob   ホチョブ建造物 2 の復元模型。  (チェトゥマル マヤ文化博物館)

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   Estructura 2, Hochob  ホチョブ建造物 2         Reproduccion de Estructura 2 en Museo Nacional, D.F.

リオ・ベックとチェネスが同じ様式なのかどうかは、専門家の議論に委ねましょう。 今後また新しい発見で新しい解釈が出てくるかも しれません。 古典期が終わりに近づき文字資料が少なくなったこの時期の歴史を探る事は非常に難しそうです。

チェネス様式と言うと必ず引き合いに出されるホチョブ建造物 2、チェトゥマルのマヤ文化博物館でも、メキシコ市の国立人類学博物館 でも紹介されています。 これがチェネス様式の典型と言う事にしておきましょう。

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      El Palacio, Santa Rosa Xtampak      サンタ・ロサ・シュタンパックの宮殿と 北翼の垂直の階段。

サンタ・ロサ・シュタンパックはチェネス地区の北限にありますが、この地域では最も大きなマヤセンターだったようで、三層の大宮殿が あります。 大宮殿はここ数年来の修復作業で中央階段や上部神殿が回復されています。 今後の更なる発掘作業が期待されます。  

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      Techo abovedado de Estructura 3, Hochob        Techo abovedado de Estructura 1, Xtabas

チェネス様式アーチ天井、左がホチョブ建造物 3、右はシュタバスの建造物1です。

北東平原地域と東海岸地域は 最後の 【 マヤの建築様式 3 】です。 画像   画像